晴天の雷電

日常の発見。Out of the blue

ビジネスマンの言葉遣いに物申したい

会社や組織に入ると会議という不可思議なものに多かれ少なかれ誰しも関わることになる。部署によっては朝から晩まで会議会議のすし詰め状態で、業務が後回しになるところもある。

ただでさえつまらない責任の押し付け合いや、自家撞着に陥っている議論に関係も無しに巻き込まれてストレスが溜まっていくのに加えて、今回ここでお話しする会議内の言葉遣いによってさらに不愉快な思いをしている方も多いのではないだろうか。この言葉遣いの話に入る前にまず、会議の種類について簡単に述べることにする。

 

会議は大きく分けて4パターンに分類されると私は思う。

①グループ内(部署内)の会議

②部署をまたいだ関連区との会議

③他社や取引先との会議

④上への報告

このうち、③についてはこれからの話に当てはまらないことが多いため、①②④を想定して話を進めていこうと思う。理由は後ほど述べるが、そもそも③のシチュエーションにおいて過度に不適切な言葉遣いをするような人間はビジネスマンとして失格であるといっても過言ではないと思うため議論から外すことにする。

 

さて、会議においての言葉遣いというとざっくりしすぎているので、少し具体的に言い直す。ずばり、"人が聞いていて不愉快になるような"言葉遣いのことをここではお話ししていきたい。以下では、3つの場合を例として挙げる。

具体的な状況を想定してみたい。例えば、あるプロジェクトにおける部品の発注納期について議論しているとしよう。参加者は3人。あなたという担当者と副担当者、そして上司である。あなたは発注納期をいつに設定したらいいか今一つ決めきれないでいる。自社の標準として、いつまでに在庫していなければいけないという納期は存在するので、そこから逆算して発注をかけたい。しかしながら、発注先の都合を考えると単純逆算では間に合わない、もしくは整合に手こずるかもしれない。そんな考えを頭の中で巡らせて、頭の整理がつかず上手く提案ができない。こういった状態で会議内で相談をしていて上司からアドバイスをもらう。この時に上司からこんな一言。

「まずケツを決めて、そっから逆算しよう」

この言葉、もちろん方法論的には間違ってはいない。しっかりと訳すなら、

「まず死守するべき納期(デッドライン)を決めて、そこから逆算して妥当な時期を考えよう」

みたいな感じになる。

発注を経験しているビジネスマンの方や納期設定を主体的にやったことのある人なら社会人問わずこういう方法を取ったこともあると思う。問題なのはこの言い方である。

この短い単語の中で「ケツ」という単語がひときわ目立っている。実際に言葉に発する際も「ケツ」にアクセントがこもる。そうなると聞いた側としては、このアドバイスの印象が全体のたった一つの部分だけにフォーカスされてしまい、結果として少し下品な言葉を聞かされた、と思ってしまう。「おしりを決めて、、」という少し表現をマイルドにした別バージョンの言い方もあるが、正直なところ何も変わってない上、程度としては同レベルにとどまっている。

 

二つ目の例はある概念を表す単語を例にとっている。

世の中にあるシステムやモノは、多くの場合フォールトトレラント(Fault Tolerant)という考え方に基づいて設計・開発されている。簡単にいえば、壊れても大丈夫なように対策を事前に施しておく考え方である。

この考え方の一つにフールプルーフ(Fool proof)というものがある。フールプルーフとは、意図しないような使い方をしても故障しないようにする、という考えで安全対策を施しておくことである。電子レンジはドアを閉めないと加熱がそもそも始まらないが、これはこのフールプルーフの考え方に基づいている。ドアが閉まっていないと回らない洗濯機も一例にカウントできる。小さい子とかが間違って(ふざけて)入ってグルグル回ってしまうと大変なことになりますから。

この単語、英語をそのまま直訳すると「バカにも耐える」になる。(Fool→バカ、Proof→耐久とか、耐えるとか)つまり、直訳が転じて「バカよけ」と呼ばれることになるのである。この「バカよけ」を施してあるモノを話題にする際には、必ずといっていいほど「フールプルーフ」を「バカよけ」と称すのである。

これに関しては多少致し方ない部分もあるとは思う。フールプルーフをまじめに日本語で発音すると7文字、対してバカよけだと4文字で歯切れがいい。ただ、この単語に含まれる2文字の率直な言葉が好印象をもたらさない結果につながってしまっている。

「バカ」という言葉を聞いて気持ちいい人はいるだろうか。言われ慣れている人は何とも思わないのかもしれないが、多くの人はどちらかといえばネガティブな印象を受けるだろう。たとえ自分に向けられていないとわかっていても、この二文字単語はあまり聞きたくはない。

 

三つ目の例もテーマ等で議題を管理している会議に参加した人がいれば経験があるかもしれない。

ミーティングでいくつか議題がある場合、上から順番に見ていって、最後の議題が終わった時に、

「議題は全部なめましたが・・」

という決まり文句が飛び出してくる。

この「なめる」という言葉は正直に言ってどうにかならないものかと思う。もちろん「賞を総なめする」といった新聞でも使われる場面もあるが、舌を使って味見する方のなめると、相手を馬鹿にしてかかるほうのなめるが連想される。どちらも印象としてはポジティブには転じないだろう。

 

このように、会議内でのちょっとした発言で不快な思いをさせるような単語や言葉は上で挙げた3つの例以外にも多く見つかると思う。それが上に詰められている時や、議論が難航している場面で繰り出されると無意識的なストレスが、センシティブな人間には特に、積み重なっていくのである。昭和、平成、令和とずっと続いてきた会社だと、昔からの慣習かなにかで平気な顔をしてこういった単語を切り出してくる人がいる。

もう少し上品な言葉遣いができないものなのだろうか。上品でなくとも、せめて下品な言葉を少し避けてみる、ということはできないものなのだろうか。

先に挙げた三つを例にとって、言い方を改善してみようと思う。

まず一つ目の「ケツを決める」という言い方は「デッドラインを決める」と言い直すことが可能である。これは横文字にした場合の歯切れの良い言い方に直すパターンである。「最悪納期を決める」と言い直すことも可能である。この場合、日本語で言葉を補って下品な印象をなくしたパターンである。

もう一つのフールプルーフの場合はどうか。フールプルーフを意訳すると「誰にでも簡単に動かせる」や「単純明快」ということになる。正直に言うと、この単語は無理して日本語に直さず、単純にフールプルーフのままでいいのではないかと思う。英語で単語が二つ組み合わさっており、それぞれの単語の直訳が意味を持っているのではなく、"fool"と"proof"が組み合わさった"fool proof"という一つの単語として意味を持っているのである。つまり、言葉にすると少し長くなるような概念をこのフレーズで既に短縮しているのである。英語で短くなっているなら、日本語でわざわざ下品な言葉を使ってまで短くする必要があるのだろうか。流行りにのって「フルプル」なんて略してみてもなんかしっくりこない。

結局のところ、上記の2件は日本人の妙にモノを短く言いたい習性から、こういった短い下品な言葉を含んだ意訳単語が生み出されてしまういい例であろう。

ただ、三つ目の「議題をなめる」については単純に「議題をみる」でいいのではないか。「議題を全部みましたが」と平易な日本語に言い換えてもいい。発音している時間も大して変わらない。なめる、よりは、みる、の方がどこか自然な感じもする。最初にそういう言い方をした人がそっちの方がいいと感じて、ずっとそれで続いているのだろう。

 

長々と書いてきてしまったが、言いたいこととしては、上品な言い方でない言葉の言い回しを少しの工夫で回避できないものだろうか、ということだ。誰だってストレスがたまる会議で、それに不愉快に拍車をかけるような単語は聞きたくない。少しの工夫で改善していく余地はありませんか。

子供が悪い言葉遣いをすれば大人が注意する。そうすればその子は発した言葉が良くないものだと認識して、次から使わないように気を付けるだろう。ただ、成人して社会に出た大人はどうだろうか。彼らを言葉遣い一つで叱る存在はほぼいない。いたとしても、叱る側の人間が尊敬できるような人間ではなく、その人間もまた、時にすればもっとひどい言葉を平気で発している場合もある。結局のところ、そういった心持ちを変えられるのは当人だけであるが、回りにそういった悪い言葉遣いをする人間がいなかったらどうであろうか。明日からのちょっとした気遣いの持ちよう、始めてみませんか。

2022年12月4日